kon×hatena

コンピュータビジョン・パターン認識の研究をしています。聴覚障害のこと、専門のことその他もろもろを投稿していきます。

『共生を考える場。』企画

2月14〜16日に実施された『共生を考える場。』企画に参加してきました(主催:東海ろう学生懇談会)。*1

この企画でイロイロ考えることがあったので,忘備録的な感じで書いていきます。

『共生を考える場。』企画とは

ろう者・難聴者・聴者の考えをみんなで共有し、様々な問題を共に解決していくことを目的としています!


障害の有無に関係なく、色々な人と関わり、ろう者・難聴者・聴者のことを知ろう・理解しよう!視野を広げよう!お互いの気持ちを発信しよう!共生をきっかけに貴方の世界が広がりますように...


この企画の特色は、なんといっても「聴覚障害者と健聴者の参加者数がほぼ同程度」であること。結果として、対等な立場での話がしやすい環境がつくりだされることになります。
手話サークルでは、健聴者の人数が多く、聴覚障害者団体では、聴覚障害者の人数が多く、なかなか対等な立場での話はできないんじゃないかな。

参加者もバリバリ手話ができる方から最近知ったばかりの方までいらっしゃいます。(健聴者でもバリバリができる方、聴覚障害者でも手話が出来ない方、とかなり多様です)

自分が名古屋にいた頃から毎年参加していますが、参加するたびに新たな発見がある企画です。

生活する上での情報格差

自分の中で、今ホットなテーマです。
というのも、聴覚の障害のレベルによっては電車のアナウンスやら博物館の音声ガイドの内容やらを聴き取ることが出来ないので。
結果として、どういうことが起きるのかというと、

緊急時、何が起きているのかわからない。不安でしょうがない。

企画に参加するため、東京から愛知まで行く新幹線に乗っていたんですが、大雪のため遅延が起きていました。
(大雪でも動くこと自体、スゴイことですが)

その時、いろんなアナウンスがされると思うんですが、やっぱり聴き取ることはできません。
ですから、得られる情報といえば電光掲示板に表示されている内容のみです。
そのとき、ふと思ったのが
「電光掲示板に表示されている情報以外のことも、アナウンスがあるのでは?」
ということ。この件は、企画内のディスカッションに持ちだしました。


愛知からつくばに戻るときは、夜行バスを使ったんですが、これも遅延。大雪が原因で遅れが出ているのかと思い、ネットで検索したのですが、どうも原因が見当たりません。
たまたま運転手さんが乗客席のほうに来ていたので、筆談でお伺いすると「事故のために遅れが出ている」とのこと。
原因がわかったのでホッとしたのですが、その後も時折アナウンスがあり、その内容がつかめないという事がありました。
幸い、運転手さんも「聴覚障害者の乗客がいる」ということがわかったので、アナウンスのたびに筆談で内容をお伝えしてくださいました。
内容はこんなものです。

  • 駅の近くの高速バスのりばで停車するので、急いでいる方は電車をご利用ください
  • ○○のSAに止まります

簡単な内容なんですが、これを知っているかどうかでは安心度が違います。

途中の停留所で人がぞろぞろ降りていくのですが、「電車への乗り換えのため」ということがわかっていたので、スルーしていました。
もし、この情報がなかったら、何が起きているのかわからないままとりあえず周りに合わせて降車していたと思います。


知識を蓄えることができない

自分自身も博物館や展覧会が好きで、よく行ったりするんです。たいていのところには音声ガイドが置かれていますね。
このガイドの中には、大変有益な情報が含まれていると思うんですが、聴覚に障害があるためその内容を聴き取ることができない。
結果として、得られる知識に差が起きてしまいます。
そういうこともあり、施設を充分に満喫できないことから「障害割引」制度があり、利用させてもらっているんですが、やっぱりそういった情報も欲しいというのが正直なところです。

というのも、博物館で得たいろんな知識が学校の勉強にも影響をあたえるんじゃないか、と思っているところがあるのです。
特に、小学校〜高校までの間はそれが強いんじゃないんでしょうか。
博物館の展覧内容は、直接学校の勉強には関係ないのですが、学校での勉強に役立ちます。
そういうところもあるので、情報保障があっても、聴覚障害者は健聴者に比べて勉強面でハンデがあることは否めません。
このへんも気になったので、ディスカッション企画に持ちだしました。

勉共会

ディスカッション企画の名称です。共生企画のメインで、いくつかのテーマの中から一つ選び、聴覚障害者と健聴者でディスカッションをしていきます。

今回のテーマは、

  • 恋愛
  • 教育
  • 生活
  • 手話
  • 情報保障

の5つでした。自分は上述のように、生活上の情報格差に興味があったので、生活を選択しました。
グループメンバーに生活のテーマを選択した理由をお伺いすると、「聴覚障害者と健聴者の生活や文化の違いを知りたい」といった感じの返答でした。

きこえる人ときこえない人の違いの話

当たり前ですが、聴覚障害者と健聴者では、五感のうち使用する感覚が異なっており、それらの感覚をフル活用して生活しています。
ですから、そのうち一つが欠けるとどうなるか、といったことは想像できません。
(自分も、視覚障害者がどのようにして生活しているのかということは想像できませんしね)
てことで、きこえる人・きこえない人の2グループに分かれ、互いに質問していきました。

きこえる人からは、こんな質問です。

声が聴き取ることができないことで、○○のような問題があるけどどうしているか

例として、「チャイムやノック音がきこえないが、どうしているか」「緊急時に119をするときはどうするか」。
こういった質問に対しては、聴覚以外の感覚、特に視覚で代替する、といったことを踏まえた上で説明すると、納得してもらいやすかったように思います。

  • チャイムやノック音

音の情報を視覚情報になおしています。チャイム音をフラッシュライトに変換する機器があるので、それを利用しています。((http://www.kind-fukushi.net/shop/2012/06/post-194.html)


ちなみに、施設を借りて合宿する場合は、部屋のドアを開けて手を降ったりして人を呼んでいます。ノックは聞こえないので使いません。
(そのかわり、部屋に入らないように注意して手を振ります。このへんもマナーの一つですよね)

このような福祉機器はイロイロあり、障害者手帳を持っていれば国からの助成を受けて購入することが出来ます。
寝ているときは耳も聞こえず、目も見えないので、振動する目覚まし時計を使って起きています。


  • 救急通報

実は、いままで119を利用したことはありません。使わないのが一番ですけどね。
ということで、どうしたらいいのかみんなで一緒に考えました。
緊急時の連絡はFAXやメールでも対応できるとのことです。ただ、このことを知らない聴覚障害者も多いのが現状です。このへんは、どうやって経験を溜めるんでしょうね?

自分は、以前どっかの講演で「災害119」*2というアプリを知りました。

災害119とは災害時の緊急連絡アプリです。災害に遭遇した際、スマートフォン(Android) にて、自分の「声・写真・文字・現在地」の4つの情報を一つに まとめて、誰でも簡単に家族や知人にメールで知らせることができる無料のアプリケーションです。

てことで、スマホGPS情報やらなんやらを使って、簡単に緊急情報を伝えることが出来ます。まさに「かがくのちからってすげー!」


どうやってコミュニケーションをしているのか

人にもよりますが、手話と口話、筆談でコミュニケーションを取っています。
聴覚に障害があり、音声情報は頼りになりませんので、可能な限り視覚情報を用いています。口話の場合もそうです。
口話の場合、小さな頃は「唇を読み取っている」と周りに伝えてきましたが、最近は「唇の情報に加え、非言語情報もフルに活用して会話を読み取る」と伝えるようにしています。
口話の場合、唇の動き以外にも表情や目の動きといった言語では表せない情報も必須です。そういったたくさんの情報を元に、脳をフル回転させて言語処理を行っています。
(こういう面もあるので、聴覚障害者の言語処理能力は健常者よりも高いのでは?と考えています)



一方、自分からはこんな質問をしていきました。

印象に残るTVのCMはどんなものか

最近、TVのCMにも字幕がつくようになって、「CMってこんなに面白かったのか!」と知ることができました。CMへの字幕付加の取り組みは、花王が有名ですね。*3

で、感動するのと同時に、ショックでもありました。
「健聴者のかたは、普段からこんなセンスのいいCMを見て、センスを鍛えていたのか!」という思い。
それまで、自分にとって印象に残るCM=映像が面白いCMでした。ソフトバンク白戸家とか。
ただ、内容が理解できるとなると、また異なった要素がもとで印象に残るんじゃないかな、という疑問。

回答は、「メロディが頭に残る」とのことで、ナルホドと思わされました。
この二つを考慮すると、聴覚障害者向けと健聴者向けでは、CMのつくりかたを大きく変える必要があるんではないか、と思わされました。


ひそひそ話をどうやってしているのか

自分は、幼いころの訓練の結果、発音はできるものの小さな声を出すことができません。たいてい「?」な顔をされます。
その原因はなんだろう、とずっと考えていたので、今回聞いてみました。その結果は、

声帯を使わずに発音する

23年間生きてきて、全く知りませんでした。
ものすごく衝撃的です。
幼少時の訓練は、声帯を使った発音の訓練しかしていなかったので、ひそひそ話ができないのも当然です。長年の疑問が解決しました。

福祉機器と気づかないバリアの話

昔と比べると、聴覚障害者も暮らしやすくなりました。
電車に電光掲示板が搭載されることで、次はどの駅に停まるのか把握することが出来ます。
(電光掲示板のない電車だと、電車が停まった時に「いまどこにいるのか」といちいち確認をしなければなりません。けっこうメンドクサイです。)

こんな風に、これまで得られなかったいろんな情報が得られるようになったわけですが、それで充分とは言えません。
健聴者によると、アナウンスにおいても、電光掲示板に表示されているもの以外の情報が含まれているようですが、それについての情報は得られません。
ただ、一応文字情報として提示がされているので、聴覚障害者は「電光掲示板に情報が出ているから安心だ」、健聴者も「電光掲示板に情報が出ているので、聴覚障害者がいても大丈夫だ」という思い込みが起きてしまいます。これが気づかないバリアです。

これに気づくためには、聴覚障害者との関係が深い健聴者が不可欠で、情報が抜け落ちていることを発信していく必要があるのかな、と思ったりしています。

で、これを改善するためにはいろんなシステムが必要になってくるんですが、福祉機器の話でいろんなアイデアが出ました。

  • ブレスレット型筆談器
  • ブレスレット型文字表示器
  • HMDを用いた情報提示システム

これだけで全ての問題を解決できるというわけではないのですが、近年は科学、とくにITの進歩がすごいので、社会を変えるようなシステムがいつか生まれるかもしれません。
自分もエンジニアなので、障害者を人的に支える(介護、教育)よりは、社会全体を支えるシステム(大規模情報保障システムなど)をいつか作ってみたい、という思いがあります。



さいごに

こんな風にいろいろな話をしていったのですが、やっぱりためになりますね。
聴覚障害者は健聴者がどんなことに対して疑問を抱くのかわかりませんし、その逆もまた然り。
立場や文化の違う人間が互いに話し合うことで色んなアイデアが生まれます。
そのため、自分は「障害があること=強み」だと考えています。
世の中は健常者が多数派であるため、彼らのアイデアからいろんな技術やシステムが生まれています。革新的なシステムを作るためには、今まで誰も思いつかなかったような見方も必要になります。そんな中で、健常者とは異なる育ち方をしてきた障害者は、健常者と異なるモノの見方が可能で、強みにもなります。
聴覚障害者に限らず、視覚障害者、精神障害者身体障害者。ありとあらゆる障害者は、それぞれ育んできた価値観があります。その価値観を共有することで、すべての人々が幸せになるようなアイデアも出てくるのではないのでしょうか。

だからこそ、健常者と障害者が共に生きていくことのできる社会が必要になるのです。『共生を考える場。』企画は、勉共会だけではなく、休み時間も含め、健常者と聴覚障害者が共に生きていく場について考えることができる良い企画でした。