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コンピュータビジョン・パターン認識の研究をしています。聴覚障害のこと、専門のことその他もろもろを投稿していきます。

聴覚障害と就職活動

はじめに

就職活動が終わりました。
就職活動中、「聴覚障害者の生の声」がネット上にあまり見当たらなかったということもあり、まとめることを思い立ちました。


聴覚障害と就職活動について書かれたものとして挙げられるものは
gobou2007さんの「聴覚障害のある私が「就活」してみた」でしょうか。
聴覚障害のある私が「就活」してみた - NoBlog -I'm Hearing Impaired-

ここでは、

まず始めに、聴覚障害者が就活する上で困ること

説明会が聞き取れない
面接での受け答え
選考案内等の電話に対応できない(←聴力レベルによります)

といったことが書かれていますので、今回は「どういったことがあったのか」を中心に書いていきたいと思います。

なお、私は情報科学系の大学院生ということ、手話ではなく口話で話すこともあるということの2点を考慮した上でご一読ください。


手話通訳をつけるということ

障害を持つ方の場合、Web Sanaクローバーナビを活用される方が多いのではないのでしょうか。私も例に漏れず、このサイトを活用させていただきました。

このサイト主催の「合同説明会」には、次のような特徴があります。

  • 障害者雇用を考えていらっしゃる企業が集まる
  • 手話通訳者・要約筆記者が配備されている
  • 1対1で説明を受けることができる

私は当初、手話通訳者についてもらいながら人事担当の方と面談をしていたのですが、ここで困ったことが起きました。
技術系志望ということもあり、研究テーマについて話す機会が多くあるのですが、専門用語が出てきます。
ただ、手話通訳者のかたはそれらに関する知識を持ちあわせていない場合がほとんどで、上手く訳することができないのです。

人事「うちの会社ではLinuxリナックス)も使っていますが、経験はあるでしょうか?」

手話通訳者が「リラックス経験はあるでしょうか?」と通訳。

学生「(…おそらくリナックスだろうな)はい、あります」

頭のなかで二重翻訳をしているという感じで、非常に頭を使います。
実は、私も学会発表(ポスターセッション)で手話通訳者をお願いしたのですが、専門用語の通訳は難しく、結局手話通訳を介さずやりとりをし他経験があり、その時から「専門的な内容の通訳は難しいなぁ」と実感していました。
同分野の知識を有している通訳者であれば心強い味方なのですが、現実にはそういった方はなかなかおらず、難しいところです。


最終的には、手話通訳は人事担当からの説明のみにとどめ、質疑応答などは筆談・口話で、というスタンスになりました。こちらのほうが、人事担当との距離も近くなったように思います。


ちなみに、私の同期がある企業のエントリーの際に「面接の際に手話通訳を希望しますか?」という項目があったため希望を出したところ、面接の段階になって「手話通訳の用意ができないので、今回はご縁がなかったことに…」とお祈りされたこともあったようです。まだまだ難しいところがあります。


情報を集めること

就職活動の定番として「OB/OG訪問」というものがあります。
ただ、聴覚障害者の場合は「聴覚障害者の社員訪問」という形が多くなると思います。
これは、会社選びの際に「聴覚障害者でも能力を発揮できる環境があるか」を知るために、当事者の経験談を聞くが必要になるためです。
同じ大学の聴覚障害を持つ先輩、しかもたまたま希望する会社に入った…なんてことは殆ど無いので、「聴覚障害者の先輩」に絞って情報を集めます(笑)。

私の場合は、説明会の際に「聴覚障害者の社員がいれば、是非会ってみたい」とお願いをすること、希望職種に就かれた先輩にお会いし、「その職種の場合、聴覚障害があることでどんな苦労があるか」といったことを心がけました。

ちなみに、数ある企業の中には「聴覚障害者」を強く求めているところもあります。
こういった会社は、健常者とはまた違ったものを聴覚障害者に求めています。ギャップを確認しておいたほうが良いかも知れません。
私は、面接の時に「障害者向けのシステムを作るためには何が必要か?」といったことを聞かれ、戸惑いました。


面接をするということ

私は採用面接にあたって、一度も手話通訳は付けてもらいませんでした。
というのも、自分が手話通訳を上手く活用できる自信がなかったということ、どんなに拙くても自分自身の言葉(=口話、筆談など)で伝えたいという思いがあったためです。
そのため、面接にあたって予め「聴覚に障害があること」「うまく聞き取れなかった時は聞き返すこと」「筆談をお願いすることがあるということ(さらには、筆談ツールをこちらで用意しても構わないかどうか)」の3つを伝えました。

私は近い距離であれば、唇の形から会話内容を読み取ることは可能なのですが、距離があるととたんに厳しくなります。
ただ、面接室に入るまで座席の配置などを把握することができないため、部屋を開けるまでは「面接の緊張」×「席の配置はどんな感じなのか」で頭がいっぱいでした。
時には私と面接の距離が遠く、ノートに書いてもそれが見えない、といったこともありました。今思えば、予め座席の配置などを確認しておくべきだったかなと思います。

ところで、聴覚障害者が採用面接を受けるにあたって、定番の質問「障害についてお聞きします」があります。
gobou2007さんの「聴覚障害のある私が「就活」してみた」には、次のように書かれていました。

また面接で自身の障害を説明するのですが、これが本当に難しいです。10年以上共に生活した家族でさえ私の障害を完璧に理解してもらえないのに、数分程度で面接官にどうやって説明するか。11月頃、私はポートフォリオポートフォリオ - NoBlog -I'm Hearing Impaired-)を作成し、自身の障害をうまく説明できるように練習しました。

就職活動は自分の障害を見つめなおす良いきっかけになります。
私も就職活動を始めるまではうまいこと理解をしていなかったのですが、沢山の人に説明をしたこともあり、最近は具体的に話すことができるようになりました。

具体的には、次のような変化です。

耳が聴こえないのですが、近い距離であれば会話内容を読み取ることが可能です。

耳が聴こえないのですが、幼少時より発音・読話の訓練を受けており、◯◯程度の近い距離であれば唇の動きをもとに会話内容を読み取ることが可能です。
ただし、読話にはかなりの集中力と経験が必要になるため、目が合っている時でないとほとんど読み取ることはできません。目が合っていても、唇の動きがお年寄りのようにぼそぼそしていたり、聞き慣れていない言葉の場合は理解できないことがあります。
また、会議室のような閉鎖空間であれば、反響音で聞き取りやすくなりますが、オフィスのように広い空間だと反響音がなくなるため、ほとんど聴き取ることは難しくなると思います。そのため、筆談をお願いすることが多くなるかと思います。

ちなみに、研究開発職は論文・学会発表も必要になるため、英語力について聞かれます。私の場合は、「幼少時の訓練を受けていないので、Talkingは絶対にできません」と伝えました。(訓練でできるようになるのかどうかはわからないのですが)
その一方で、「Reading・Writing・ジェスチャーなどでコミュニケーションを取ることは可能です」ということも伝えました。
私は昔に英検を取ったことがあるのですが、その2次試験(英語面接)でも同様の方法を取っていますので、その経験が活きているのかなと思います。

見学をするということ

いくつか面接が進んだ段階で、会社に見学を申し出たこともあります。
ほとんどは内定を頂いた後に訪問をさせて頂き、「自分は本当にこの会社に入った後、やりたいことができるか」を考慮しつつ社員の方とお話をさせていただきました。また、コミュニケーション方法にも注目をしました。
社員の方とのコミュニケーション方法が、そのまま自分が入社した後のコミュニケーション手段になる可能性が大きい、と考えたためです。
幸いにも、私の対応をしてくださった社員は、みなさん筆談にも快く対応してくださり、とても良い印象を受け、安心したのを覚えています。

おわりに

某社の採用にあたって、私の担当をしてくださった人事の方の言葉があります。

「面白い人に会えるから人事をやめられない」

就職活動は人と人の出会いの場でもあります。私自身も、就職活動を通してたくさんの人と出会うことができ、成長することができました。
人生のビッグイベント、楽しんで下さい!